熱中症
5月に入って既に、“熱中症に注意!”のニュースが見られる様になってきました。急に気温が上昇し、知らず知らずのうちに脱水になってしまう事があるためです。最近の夏は、何日も真夏日が続き、日中のみならず夜になっても異常な暑さが報告されることが少なくありません。多くの道路が舗装され高層ビルの多い都市部のみならず、風通しの少ない部屋の中では気温が異常に高くなります。地球温暖化に伴うヒートアイランド現象でしょうか。
高温多湿の職場や炎天下での運動中に倒れたり、自宅で意識が無くなり救急車で運ばれるニュースが後を絶ちません。暑くなる前に、熱中症を少し理解しておくことも予防に役立ちます。
熱中症とは
高温環境下で、体内の温度調節機能がうまくいかなくなり、水分や塩分(ナトリウムなどの電解質と呼ばれるイオン)のバランスが崩れ、体内の調整機能が破綻することでおこる一連の病態の総称です。
メカニズム
熱い中では、人は皮膚の血管を拡張させて熱を放熱させたり、汗をかいて、その蒸発で体温を低下させたりしています。その結果、体から水分や塩分が失われますが、この不足分に十分に補給ができないと、体内の水、電解質のバランスが崩れる、体温調節がうまくいかなくなります。その結果、体温が異常に上昇し、種々の病態を引き起こします。
熱中症の種類
熱中症は強い日差しの中で運動しているときにおこるものではなく、部屋の中にいても起こります。以前は、熱失神、熱痙攣、熱疲労、熱射病などと呼ばれていましたが、言葉の混乱があり、熱中症として総括され、重症度の違いで1度からIII度に分けられています。
重症度分類

I度
めまい・失神(熱失神)
発汗による脱水と末梢血管の拡張によって、脳へ循環する血液量が減少した時に、立ちくらみ、めまいが起こります。症状が強い時には意識を失ってしまいます(失神)。体温は正常であることが多く、発汗が見られます。
治療 涼しいところで体を冷やし、点滴(輸液)で水分と電解質を補充します。
筋肉痛・筋肉の硬直(熱痙攣)
たくさん汗をかいた後に水分だけを補給すると、ナトリウムなどのミネラルが不足し、下肢筋肉が急に痙攣をおこすことがあります。寝ているときに起きるこむら返りと同様、激痛を伴います。体温は正常であることが多く、発汗が見られます。
治療 水分を摂取するときはナトリウムなどの電解質の多いものを摂取します。
点滴でもナトリウム濃度の高い輸液を補充します。
II度
頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感(熱疲労)
多量に発汗した時、水分や電解質の補給が追いつかず、脱水になると、むかつき、全身倦怠感、頭痛、脱力感など様々な症状が起こってきます。汗をかき、体温は38-39度に上昇します。
この場合にも水分補給と電解質補給を行います。
III度
意識障害・痙攣・手足の運動障害(熱射病)
脱水、電解質異常などで脳の視床下部とよばれ体温調節中枢が障害されると起きる高度な障害であり、緊急に入院治療が必要となります。
真直ぐ走れない、歩けないなどの平衡感覚障害、全身の痙攣、意識障害、混迷、昏睡などへ移行します。
体温は40度以上に上昇しますが、発汗は見られません。
年齢別に見た重症度

平成19年 日本救急医学会 出典
高齢になるとより重篤な状況になることが報告されています。
熱中症環境保健マニュアル 環境省
http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual.html
熱中症を防ぐには
一般的には気温が35度以上の場合は運動を控えたほうがよいといわれています。
30度を超えればかなり注意をして、行う必要がります。
湿度が高い場合これよりも低い温度で発汗します。5-8度低い温度設定が望まれます。
これは職場、部屋の中でも同様であり、27度を超える室内では、通風を良くし、扇風機、エアコンなどを使用したり、顔や体を水で湿らせたりして、体表面温度を下げる努力と共に、こまめな水分、食塩の補給が大切です。
運動や仕事の前後に適度な水分、電解質補給を取ること、十分な休息、睡眠をとりましょう。とはいっても寝苦しい夏、睡眠不足にもなりがちです。野菜ジュースなどでミネラル、ビタミン補給も心がけましょう。スポーツドリンクにはナトリウムなどのミネラルが含まれています。発汗多い時には水だけではなく、電解質(ナトリウムなどのミネラル)を含んだドリンクを飲むように、心がけてください。ただし、スポーツドリンク中のナトリウム濃度は血液中の濃度の1/4程度で、多量に発汗する場合には十分ではありません。夏場は心臓、高血圧などの病気のある方を除いて、塩分を食事から多めに補給することも大切です。
もう一つ、スポーツドリンクで糖分が入っているものは、あまり多く取りすぎないようにしましょう。多量に飲む場合は、カロリーフリーのボトルを選択してください。
かといって過度に水分摂取することも体を疲れさせてしまいます。水分補給は多すぎず少なすぎず、適度な量の水分補給を行うことが重要です。その目安は、普通の時と同じくらい尿量があることが一つの目安となります。